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旭川家庭裁判所 平成5年(少ハ)2号 決定 1993年5月25日

本人 U・T(昭48.1.18生)

主文

本人を平成6年1月17日まで中等少年院に継続して収容する。

理由

1  申請人北海少年院長は、本人を平成6年1月28日まで中等少年院に継続して収容する旨の審判を求めた。

申請理由の要旨は、(1)本人は、昭和48年1月18日に生まれ、平成4年6月29日当裁判所において中等少年院に送致する旨の決定を受け、同月30日北海少年院に入院し、同年12月14日申請人から、本人の収容を平成5年6月28日まで継続する旨の決定(少年院法11条1項ただし書)を受け、同日限り収容期間が満了するものであるが、(2)本人に対する院内教育は所期の成果を挙げておらず、特に、本人は同年4月中旬から6月17日ころまでの間に犯した不正通信等の規律違反により懲戒処分や処遇段階の降下処分を受けるなどしたため審判時点でなお中間期教育を受けていることなどを考えると、本人には上記収容期間満了後更に4か月間の院内教育を受けさせる必要があり、(3)また、仮退院後の帰住予定先の状況、就職見込み、交友関係等をも考え合わせると、本人には院内教育終了後3か月間の保護観察を受けさせる必要があるというのである。

2  一件記録に本件審判期日における本人、その父U・S、母U・R子の各陳述を総合すると、次の事実が認められる。

(1)  本人は、平成2年5月2日当裁判所において窃盗・道路交通法違反保護事件について旭川保護観察所の保護観察に付する旨の決定を受け、平成3年6月12日成績良好により保護観察を解除された。しかし、これに先立つ平成2年6月ころから旭川市内に本拠をおく暴力団○○組組員らと交友関係を持ち始め、同年8月同組に加入し、この組員らと共謀して平成3年5月3日から同月11日までの間に自動車盗、車上ねらい等の窃盗を犯し、そのため、平成4年6月29日当裁判所において中等少年院に送致する旨の決定を受けた。その後の経過は、上記1(1)のとおりである。

(2)  北海少年院では、本人に対する個人別教育目標として、「<1>自分勝手な行動を改め周囲の人に思いやりを持って接することができるようにさせる。<2>言い訳や責任転嫁をせず、自分の問題に正面から取り組む姿勢を身に付けさせる。<3>簡単に逸脱行動に同調せず、自分の判断で正しい行動ができるようにさせる。」の3点を定め、これらの目標を達するため、新入時教育1.5か月、中間期教育(前期・後期)5か月、出院準備教育3.5か月の合計10か月からなる処遇計面を立てた。

(3)  この計画に基づき、本人は、平成4年6月30日、新入時教育・2級下に編入されたが、病気のため外部病院で手術を受けるなどしたことなどから、中間期教育(前期)・2級上への進級は同年8月25日まで遅れた。その後、本人が院内で自分勝手な行動を繰り返し、教官や他の被収容者との協調性に欠ける点が多かったことなどのため、中問期教育(後期)・1級下への進級は同年11月16日まで、出院準備教育・1級上への進級は平成5年3月1日まで、それぞれ遅れた。ところで、同少年院においては、同年4月中旬ころから6月中旬までの間、出院準備教育中の被収容者らの一部が共謀の上、通信文を記載したテイッシュペーパーを用便時に便所の壁のすき間を通して受け渡し、これを読んだ後に水洗便所に流すなどの方法により、各自の帰住先の電話番号とか、各自が関与している暴力団組織に関する情報とか、先に出院することが見込まれる者に託した外部者への伝言とかについての不正通信や不正交談が繰り返し犯され、本人は、これらの共謀者の中で主導的役割を果たしていたところ、同月16日にこれらの規律違反が発覚し、調査の結果、本人は、謹慎15日、処遇段階1階級降下の処分を受け、中間期教育(後期)・1級下に属するようになって現在に至っている。

(4)  上記(2)の教育目標の達成状況をみると、本人は、中間期教育中にもなお自分勝手な行動をしたり、他人からの援助や注意に反発したり、その責任を他人に転嫁したりすることが多かった。もっとも、中間期教育後期から出院準備教育にかけては、自己の問題性が再非行につながることを認識してこれを改善しようとするようになったものの、なお、自分勝手で、責任転嫁をしやすい傾向を改善するには至っていない。また、上記(3)の規律違反の内容に照らすと、現在でも、自分の判断で正しい行動をする能力に欠けるところは大きい。

(5)  本人は、同少年院を仮退院後は肩書帰住予定地である旭川市内の実父母方に住むことを望んでおり、実父母もこれを受け入れる意向を示している。

ところで、本人の入院前の生活環境を見るに、本人は、当時、無職で、暴力団員と関係を持ちつつ上記家庭に住んでいたところ、上記家庭では教育への関心や社会規範に対する意識が高くなく、本人が暴力団と接触するなどしているにもかかわらず、その事情を把握しようと努力することも、本人に対する十分な指導を試みることもしていなかったのであって、本人は、そのような事情の下で暴力団員らと共謀して上記(1)の窃盗の非行に及び、中等少年院送致決定を受けたものである。そして、審判時点において、本人の仮退院後の就職先は内定していないし、少年の知り合いの暴力団関係者が旭川市内に少なからずいる状態も変わっていないのであって、更に、家庭の態度が本人の少年院在院中に改善されたとも認められない。

3  上記2に認定した事実に照らすと、本人に対しては、上記1(1)の収容期間満了後もなお少年院における院内教育や、帰住先を管轄する保護観察所の保護観察を受けさせる必要があり、そのために収容継続の措置をとることもやむを得ないというべきである(一般に、仮退院後の保護観察期間を考慮して収容継続を定めることには慎重な配慮を要するが、本人の犯罪的傾向並びに仮退院後の受入れ体制及び保護環境等に照らし本人の再非行防止のため保護観察を行う必要があると認められる特別の事情がある場合には、仮退院後の保護観察期間を考慮して収容継続を定めることができると解するのが相当である。そして、上記認定事実に照らすと、本件においては、本人の犯罪的傾向は未だ強く残っており、本人の仮退院後の受入れ体制や保護環境も本人の再非行を防止するのに十分ではないのであって、これらは上記特別の事情に当たるというべきである。それゆえ、本件においては、仮退院後の保護観察期間を考慮して収容継続を定めることができる。)。

そして、以上の事情に本人の年齢等を考え合わせると、収容継続期間の末日は平成6年1月17日と定めるのが相当である。

4  よって、審判の上、少年院法11条4項、少年審判規則55条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 金子直史)

北少発第××××号

平成5年4月20日

旭川家庭裁判所 御中

北海少年院長○○

収容継続申請書

少年院法第11条第2項の規定に基づき、下記少年の収容継続を申請する。

1 氏名        U・T

2 生年月日      昭和48年1月18日生まれ

3 事件番号      平成4年(少)第306、307、308号

4 事件名       窃盗保護事件

5 本籍        北海道旭川市○○××丁目○×号

6 住居        北海少年院在院中

7 決定日       平成4年6月29日

8 決定内容      中等少年院送致

9 入院日       平成4年6月30日

10 少年院法第第11条第1項但書きによる収容継続満了日

平成5年6月28日

11収容継続申請理由  別紙「収容継続申請理由」のとおり

12収容継続期間の意見 平成5年6月29日から同年9月28日までの3か月間

(上記の期間は、保護観察の期間とする。)

別紙

収容継続申請理由

1 本少年は、本年1月18日をもって20歳に達し、平成4年12月14日に決定された少年院法第11条第1項但書きによる収容継続期間は、本年6月28日で満了となる。

2 当院での処遇経過については、別添(1)「処遇経過及び成績の概要」及び別添(2)「成績経過記録表(写)」のとおりである。総じて順調に推移してきたとは認め難い状況にあり、集団生活への適応、特に安定した対人関係を維持するにはなおも指導教官の頻繁な助言・指導を必要としている。しかしながら、本件非行時に見られたような、自律性・主体性の欠落や規範意識の著しい欠如に関する教育上の様々な働き掛けに対しては、それを自己の問題として受け止める姿勢が構築されつつあり、将来の生活設計の中でも、自己の問題として改善の必要性を認識しはじめるなど、徐々にではあるが更生への意欲が認められるようになってきている。中間期教育過程において1か月ほど進級の遅れがあったものの、少年なりの努力が認められて本年3月1日に処遇の最高段階である1級上に進級し、出院準備教育課程に編入された。

3 本少年の出院準備教育期間を当初の計画通り3.5月間確保すると仮退院予定日は本年6月中旬ころとなり、近く当院では、北海道地方更生保護委員会に対し仮退院希望日を本年6月17日に設定し仮退院申請を行う予定であるが、本少年が当院の希望日通りに仮退院した場合、保護観察期間は、11日間しか確保できないことになる。

4 また、本少年の帰住環境を考えると、帰住地には、実父母及び妹と姪の計4人が同居している。実父は運転手として稼働しているが酒癖が悪く、酒を飲むと少年に絡み、少年は実父を避けるように生活していた。実母は専業主婦で病弱だが、少年との会話は多く、実父母間及び家族間の折り合いは悪くない。実父は、少年の再三の非行に対しても再就職先を探すなど一応の監督姿勢は認められるが、少年には幼少時から甘く、実父母ともこれまで少年の無軌道な生活や遊生活に強い規制を加えることなく、半ば放任し、それが少年の非行行動を助長する結果にさえなっていた。本件非行時には少年の引受けを実父母とも積極的に同意し、保護・指導を申し出ているが、これまでの放任的な養育姿勢を考慮すると、今回特に有効な手立てを用意しているというわけでもなく、適切な指導・監督を期待することは難しいと言わざるを得ない。

5 仮退院後の就職先については、実父は、自分の稼働する会社で少年を稼働させる意向を持っているが、これまでにも実父と同じ職場で稼働しながら、怠体のため解雇されるなどの経緯もあり、就職決定までには至っていない。

6 次に少年の交友関係について考えると、本件非行時、少年は、積極的に暴力団関係者と交友を持とうとしていたことが伺われる。しかも、帰住予定地域には、本少年と交友関係のあった不良仲間が多数存在していることを考慮すると、仮退院後、不良交友が容易に復活する危険性が大である。

7 以上のとおり、本少年の帰住環境及び生活設計には不安定な要素が存在し、仮退院後早急に本少年の生活基盤を確立し、危具される不良仲間との関係を絶つには、仮退院後も相当期間の専門的な指導・援護を本少年だけでなく実父母に対しても展開していく必要があると思料される。従って、今後、約2か月間の施設内教育期間を実施したとしても、更にその後3か月間程度の保護観察期間を設定することが必要と思料する。

8 添付資料

(1) 処遇経過及び成績の概要

(2) 成績経過記録表(写)<省略>

(3) 個別的処遇計画表(写)<省略>

(4) 環境調整報告書(写)3部<省略>

(5) 少年院法第11条第1項但書収容継続決定書(写)<省略>

処遇経過及び成績の概要

外遇経過

成績の概要

新入時教育過程

平4.6.30

北海少年院入院

考査寮収容、2級下編入

・単独寮での新入時教育では、理解力や要領の悪さが指摘されている。

・尖型コンジロームの治療のため、外部病院で手術を受ける。さらに、単独寮での休養が続いたため、探索課程の在籍期間が11日間延長される。生活全般にだらしなく、再三の指導にもかかわらず改善されない。

7.11

探索課程編入、3寮編入

中間期(前期)

8.25

2級上進級

木材加工科編入

・自分勝手な行動が目立つ。他者からの注意や援助を素直に聞き入れず、言い訳が多い。

・わがままで、協調性に欠け、ささいな事で感情的になるため、他の少年からも敬遠されがちである。

・半月間、進級が延期される。

中間期(後期)

11.16

1級下進級

・1級下への進級が延期となったことが刺激となったのか、自ら内省を申し出るなど、自己の問題を直視しようとする姿勢が認められるようになってきた。

・少年なりの努力は認められるものの、感情統制が悪く、他の少年の注意や援助に反発して感情的になることが多く、指導を受ける。

・半月間、進級が延期される。

12.1

皆勤賞受賞

12.10

再鑑別実施

12.14

少年院法第11条1項但書による収容継続決定 (平成5年6月28日まで)

平5.1.1

仮退院準備調査面接実施

1.22

ガス溶接技能講習修了証取得

2.1

勉励賞受賞(漢字検定)

出院準備教育過程

平5.3.1

1級上進級、1寮編入

・出院準備寮への転寮という環境の変化にうまく適応できず、気晴らしのために不正な交談を持ち掛けるなどの問題行動が見られ、指導を受ける。

・出院後の生活を意識し、少年なりに危機感を抱くようになる。自己の問題性が再非行に直結することを認識し、改善意欲を持つようになってきている。

北少発第××××号の×

平成5年5月21日

旭川家庭裁判所 御中

北海少年院長○○

収容継続申請主旨の変更について

客月20日付け、北少第××××号で申請した、当院在院中の少年U・T(昭和48年1月18日生)の収容継続申請書の主旨を下記のとおり変更いたしますので、よろしくお願います。

1 変更内容

本少年の収容継続期間を、本年6月29日から平成6年1月28日までの7か月間と変更する。

2 収容継続期間の内訳

本少年の少年院法第11条1項但書きによる収容満了日の6月28日から4か月間程度の収容教育を確保した上、さらに3か月程度の保護観察期間を見込んで、計7か月間とする。

3 変更の理由

本少年については、本年6月17日を仮退院希望日として設定し、本年4月20日付けで北海道地方更生保護委員会に対し仮退院申請をすると共に、以後の保護観察期間を確保するため、3か月間の収容継続を申請していたところであるが、本月16日になって本少年の規律違反行為が発覚し、調査に付した。

調査の結果、本年4月中旬から本件発覚時までの間に、同じ出院準備寮の少年3名と、実習中や寮内トイレ及びホールで、ちり紙やメモ紙を使って不正通信や不正交談の事実が明らかとなった。その内容は、出院後会って一緒に遊ぶために帰住先を教え合ったり、少年等が知っている暴力団や右翼団体の話題、女友達のことやその住所、お互いの電話番号、知人や非行共犯者への伝言依頼等であった。

本件規律違反は、本少年が寮内生活及び実習態度の低下が認められるとして個別的指導のため寮内集団室から寮内個室に移されたのを契機に、本少年がかねてから馴れ合っていた少年3名に対し不正連絡や不正通信の働き掛けを行ったのが発端となった。それが他少年の違反行為を誘発する形となって、結果的に、本事犯に関係した数名が寮内や実習中互いに連絡を取り合い、いわゆる不良グループを形成するにいたった。その中で本少年は、不正通信や不正交談の手段や方法を考案し、また、発覚を防ぐため通信に使用した紙をトイレに流すよう事前に指示するなど、中心的な役割を果たしていた。日ごろ、担任教官から再三にわたり注意や指導を受けていたにもかかわらず、本件を惹起し、他少年をも巻き込んで不良グループを形成するなど本件態様は極めて問題が重大である。

以上のことから、本少年には、当院懲戒規程に基づき謹慎15日の処分を科すと共に、処遇段階を1階級降下させ中間期教育過程から再度指導を徹底することとした。また、これに伴い、先に行った仮退院申請は取り下げることとした。

なお、当院収容期問の4か月間は、1級下1か月、1級上3か月とする計画である。

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